覚えているのは座標ではなく物理契約だ。リリース地点、初速方向、衝突面の法線と摩擦、バウンド減衰係数。パッチがどれか一つに触れれば契約は失効するのに、手は古い契約のまま動いている。
多くの人のデフォルトラインは借り物だ。スクリーンショット一枚、クロスヘアの一点、しゃがみジャンプのリズムを、筋肉記憶に刻み込む。問題は、覚えたものが「座標」ではないことだ。それは物理契約の集合——リリース地点、初速方向、衝突面の法線と摩擦、バウンド減衰係数。パッチがどれか一つに触れた瞬間、契約は無効になる。それでも手は古い契約を実行し続ける。
1. 壁の法線こそが本当の「クロスヘア点」
グレネードの反射方向を決めるのは衝突面の法線であって、視点ではない。見えているクロスヘア点は、視点方向をレイに変換したものにすぎない。どこへ飛ぶかを実際に決めるのは、当たった面の向きだ。
よくある現象の説明がつく。同じスモークを A 地点では鉄のように安定して決められるのに、立ち位置を変えた途端に散る。感覚の問題ではない。当たる面が変わったのだ。正面の壁が斜面に、斜面が箱の側稜に変われば、法線が数度ずれただけで反射後の水平成分は目に見えてずれる。デフォルトラインをパッチごとに引き直す必要がある第一の理由はここにある。マップの衝突形状が少しでも調整されれば(縁の補修、隙間の封鎖、スロープの変更)、法線が変わり、古いラインの反射区間はすべてずれる。
実践では、ラインを引き直すとき、まず着弾点を探さない。先に三つを確認する。リリース高さ、当たる面の向き、反射後にもう一段の衝突があるかどうか。二段目の衝突は最も見落とされやすい。多くのラインは実は「二段バウンド」で、一段目が少し変わると二段目で着弾が半メートルずれる。
2. バウンド減衰:壁に当たるたび同じ速度が返ってくるわけではない
グレネードは衝突後に速度が減衰し、その比率は衝突の種類に紐づく。硬い面、柔らかい面、地面、プレイヤーモデル、それぞれ反応が違う。自分のラインが「一度当ててから滑らせる」依存なら、それは初期の投擲力ではなく、減衰後の残存速度に依存している。
ここに練習の罠がある。ワークショップで練習すると着弾は安定する。実戦に入るとズレる。原因はたいていネットワークではなく、そのラインが減衰後の低速区間に依存しすぎていることだ。低速区間はリリースフレームに最も敏感で、一フレーム違えば着弾も目に見えてずれる。本当に安定したデフォルトラインは「一段目で決まり、二段目は微調整だけ」のラインであって、「三段バウンドでゆっくり転がしていく」ラインではない。
だから引き直すときは、まず引き算を勧める。ラインを「必ず通す第一着弾点」と「許容できる後続のズレ」に分解する。第一着弾点は許容範囲の中心に置き、後続のズレはスモークの範囲内に収まっていれば合格とする。そうすればパッチが来ても、ライン全体を作り直すのではなく、第一着弾点だけを測り直せばいい。
3. リリースフレームと高さ:練習しているのは実はタイミング
同じクロスヘア、同じ助走でも、リリースが一フレーム早いか遅いかで着弾は目視できる距離ずれる。デフォルトラインが「先祖伝来」に感じるのは、リリースのタイミングまでエンコードされているからだ。覚えているのはクロスヘアの位置だけでなく、「ここまで歩いて離す」というリズムでもある。
つまり、移動速度・ジャンプ高さ・着地判定に影響する変更は、間接的にラインを書き換える。グレネード自体が変わったのではなく、リリース地点に到達する時間が変わったのだ。引き直すときは、先にリリースフレームを固定し、それからクロスヘアを調整する。順序を逆にすると「どう調整しても合わない」ループに陥る。
まとめ:ラインを引き直す前に三つを測る
私の習慣は、パッチの気配を感じたらまず三つを測ることだ。リリース地点の地面からの高さ、最初に当たる面の向き、第一着弾点が許容範囲の中心からどれだけずれているか。三つのうち一つでも合わなければ、そのラインは引き直す。残りは反復回数に任せる。
デフォルトラインは遺産コードではない。期限付きの契約だ。パッチが署名したら、こちらは再交渉するしかない。